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ひとりになりたくなる夜に
気づけば、一日が誰かの予定で埋まっていました。
そんな日の夜は、静かな温泉宿へ向かいたくなります。
誰かと話す気力も、予定をこなす勢いももう残っていない。
ただ、ひとりでいられる場所へ向かいたくなります。
そんな夜、私は温泉宿へ向かいました。
宿へ向かう時間も、旅の始まりです。

静かな宿へ向かうまでの気配
駅から宿へ向かう道は、街灯の光がぽつぽつと続いていました。
車の音が遠ざかるにつれ、夜の温度が少しずつ変わっていきます。
玄関をくぐると、外の空気とは違う静けさがゆっくり広がります。
靴を脱いだときの床の感触、
照明の柔らかな色、
廊下に漂う湯気の匂い。
そのまま部屋へ案内され、扉が閉まると、
ようやく夜が自分のものになった気がしました。
部屋に入った瞬間の静けさ
作務衣に着替え、
スマホをテーブルに置く。
それだけで、部屋の空気が少し変わります。
窓の外の暗さ、
静かに流れる時間、
何も決めなくていい夜。
誰にも合わせなくていい。
ただ、部屋の静けさに身を置くだけでいい。
湯へ向かう時間

大浴場へ向かう廊下は、足音が吸い込まれるように静かです。
扉を開けると、湯気がふわりと立ちのぼり、
湯面に映る光がゆらゆら揺れています。
湯に身を沈めると、
温度が肌に馴染んでいく感覚だけが確かにそこにあります。
誰かの会話も、時間の流れも遠くなります。
ただ湯の温度を感じるだけの夜。
ライブラリーで本を借りる夜
湯上がりの体に、紙の匂いが心地よい。
棚に並ぶ本の背表紙をゆっくり眺め、
気の向くまま一冊を手に取る。
読むつもりのなかった本を手に取れるのも、宿のライブラリーの好きなところです。
ページをめくる音だけが静かに響き、
他の客の気配は遠い。
夜は、ここではゆっくり流れます。
急がない2泊目の朝

2泊目の朝は、時間の流れがさらに静かに感じます。
窓の外の青が少しずつ変わり、
湯気が白く立ちのぼる朝風呂の湯面に光が落ちます。
急がないチェックアウト。
荷物をまとめる手つきも自然とゆっくりになります。
ただ、朝の光を眺めるだけの時間が続きます。
ひとりで宿にいる時間は、静かに続いていく
ひとりで宿にいる時間は、
ただ静かに流れていきます。
湯上がりの夜も、
読みかけの本も、
朝の光が差し込む湯殿も、
気づけば旅の記憶として残っています。
その静けさの中で過ごした夜と朝は、
言葉にしなくても、確かに自分の中に残っています。
誰にも会いたくなかった夜。
けれど宿を出る頃には、
少しだけ自分と話せるようになっていました。

